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第1話・勇者の嫁を強いられまして 2

Penulis: 阿良春季
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-01 06:41:54

 それから丸一日経った日のことである。夕食を終えていつものように食事を終えたミオは席を立ち、自分の部屋へと戻ろうとした。

 しかしそんな彼女を、父のベトルーグ・エヴェーレンが呼び止めた。

「実は折言ってお前に頼みがあるのだ」

 珍しく父にそう言われてミオはキョトンと首を傾げた。父がミオを呼び止めるなど珍しいし、頼みをするなどもっと珍しいことであった。

「頼み、ですか?」

「ああ、大事な話だからそこに座れ」

 一度席を立ったが父に指差された椅子に訝しげな表情を浮かべながらもまたミオは座る。

「単刀直入に言うぞ。勇者レイ・シュタインの元へ嫁に行ってくれないか?」

「はい?」

 父の予想外の言葉にミオが思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。隣席に座っていた妹のエルフェがその声にクスクスと鈴を転がすような声で笑った。

「勇者様の元へ、ですか?」

 冒険者に憧れているミオなので当然のことながら勇者の武勇伝は事細かく聞いている。

 勇者レイ・シュタインは異世界からこのフロード王国の魔法師に召喚された黒髪の青年である。魔犬退治や、巨人との一騎打ち、最近では世界最大の災厄と言われていた赤竜の討伐など、勇者の名に恥じない華々しい活躍はミオの心をいつも弾ませていた。

 それにミオには勇者に特別な秘密を持っている。

「うむ。昨日の城の爆発事件は知っているか」

 知っているも何もミオは近くの森で城壁が吹き飛ぶ様子をこの目で見ていた。

 しかし魔法の練習と言うと父は嫌な顔をするのでミオは瓶底眼鏡の奥で曖昧に頷く。

「実はあの犯人が実は勇者レイなのだ」

「え? 勇者様がお城を壊したのですか? 何故?」

 予想外の犯人の名前にミオは黄昏色の目をパチクリとさせてしまう。食卓に置かれた魔力蝋燭で照らされた父親の影が一瞬色濃く見えたような気がした。

「うむ。知っての通りアレは異世界から我がフロード王国の魔法師達の力を結集してこの世界に召喚した存在だ」

「ええ、存じております」

 稀代の勇者をアレと言うのはどうなのかと思いつつもミオは話の続きを促す。

「そもそも、その召喚儀式自体は他国に我が国の魔法力技術力を誇示するためのものであったのだ。特に西のヴァイス国の動きがどうにもキナ臭かったのでな」

 武力をアピールすることで戦争を抑止する。例えて言うなら、豪華な屋敷の前で筋骨隆々とした男たちが並んで玄関先で金属バットを素振りしているようなものだ。

 そんな光景を見ればいくら豪華な屋敷であっても強盗はわざわざその家に押し入ろうとは思わないだろう。男たちに囲まれて金属バットでボコボコにされるリスクの方が高い。それならそこそこ裕福そうでかつ弱々しい老婆の一人暮らしの家を狙った方が効率が良いだろう。

 つまりミオが住むフロード王国はヴァイス国からの侵略戦争を避ける為の牽制として勇者を召喚したのだ。勇者にヴァイス国を倒してもらう訳ではない。どちらかと言えば「この国には異世界から勇者を召喚するだけの技術力と人材がいるのだ」と言うアピールの一環である。

 確かに異世界から勇者を召喚するとなると途方もない力が必要だろう。ミオは植物を召還するだけでも失敗してしまうのだ。

 人並外れた強力な力を持った英雄を召喚するなんて一大事業である。それこそ国の精鋭魔法師たちが総出で取り組み、かつ高価で貴重な魔法道具を湯水のように使わなければ到底不可能だろう。

「……はい」

「つまり、召喚そのものが目的であって、勇者の存在そのものは特に問題視していなかったのだ」

 父の話に飽きたのかエルフェはつまらなそうに食後の紅茶が入っていたカップの縁をくるくると指でなぞりだす。エルフェの様子を見た母がエルフェに甘い菓子を出すようメイドに指示した。

 両親とも妹のエルフェを溺愛している。それはそうだ。妹はフロード王国一の美少女と言われているのである。

 ミルクティーの雨をそのまま固めたような美しいブロンドの髪、晴れ渡った青い空を小さく切り取ったかのような瞳、透き通るような白い肌に小さくて愛らしい蕾のような唇、少し低い鼻は愛らしい印象を与えた。

 どれを取っても愛らしいとしか言いようのない容貌である。

 紅茶のおかわりと花の形を模した色とりどりの可愛らしい菓子がエルフェの前に置かれる。

 ミオの前には何も置かれない。メイドたちもミオを軽視しているのだ。いつものことなので菓子とエルフェを横目でチラリと見ただけでミオは父の話に耳を傾ける。

「だからな、元の世界に戻してやると言う条件で国王や我々はアレに色々討伐をするよう命じたのだ」

「それってまさか」

 とんでもなく嫌な予感がしてミオはごくりと生唾を飲み込む。

「何処かで死んでくれたら後腐れがなくて良いと思っていたのだが、中々しぶとくてなあ」

「なんてことを!」

 父の酷い物言いに血相を変えたミオは思わず声を上げてしまう。

 信じられない。なんと非道な真似をしているのだ。

 自国の武力アピールのためだけに異世界から勇者を召喚し、いざ召喚しても彼を持て余して邪魔者扱いをして死なせるつもりで無謀とも言える危険な任務を命じ続けたのだ。

 それは最早鬼畜の所業である。人の命を一体何だと思っているのだろうか。

「とうとう赤竜まで討伐しよって……しかしこちらも元の場所に戻す方法など知らぬしなあ」

 ミオの非難の声などどこ吹く風で、欠片も悪びれることなく父は話を続ける。

 勇者を元の世界に戻すつもりなど毛ほども無いと表情が如実に表している。召喚の儀式だって国中の精鋭を集め時間と労力をかけて実行したのだ。邪魔者にそんな手間暇をかけるつもりはないだろう。

 ミオの脳裏に嫌な想像がよぎった。まさかとは思いながらもおずおずとその想像を口にしてみる。

「まさかその、昨日の爆発は……それを知った勇者様がお怒りになった故に攻撃したのですか?」

「その通り。ははは、真っ青になった王の顔は中々見ものであったがな」

 ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて父は髭を弄った。父ベトルーグ・エヴェーレン公爵は国王の信頼厚い家臣である。普段は国王にベタベタと媚を売っているのにこの発言だ。この人は本当に自分とエルフェ以外はどうでもいいらしい。

 いやエルフェのことさえも「自分の出世のために役立つとっておきの宝石」と考えているのかも知れない。そんな父がミオにはまるで醜悪な怪物のように見えてならなかった。

「勇者は国王に二つの条件を突きつけた。元の世界に戻す方法を探すこと、そしてもう一つは幽霊島を自分達の国として成立させること、だ」

「幽霊島?」

 幽霊島は赤竜の棲処であった島である。ミオも詳しい歴史は知らないが北の果てにある不毛の地と書物で読んだ。

「まあ元に戻る方法についてはともかく、あんな果ての島などどうでもいいからな、国王は一も二もなく頷いた」

「……はあ」

「あの島は特にどこの国の領地であると決まっている訳ではないが、まあ我が国の後ろ盾はあった方が良いと踏んだのだろう。私の知る限り豊富な資源がある訳でも良い土地でもなさそうだ」

 やはり不毛の地らしい。

「しかし国王は不安らしくてな。幽霊島は我が国から遠く離れているが、今度は自国に攻め入れられたらたまったものではないと恐れたらしい」

「はあ」

「そこで王はとんでもないことを言い出した」

「なんですか?」

「国一番の美姫と名高いエルフェを勇者の嫁に差し出して機嫌を取れと言うのだ」

「やだこわーい」

 わざとらしい声を上げてエルフェがぷるぷると震えて見せる。嫌味ったらしいその仕草も彼女がすれば何とも小悪魔のように悪戯っぽく可愛く見えるのが不思議だ。

「可愛いエルフェにそのような真似はさせられん、と言う訳で代わりに姉のお前が国王命令として勇者の嫁になるのだ」

「と言う訳で……ですか」

 軽々しい、なんて言葉では到底足りない。吹けば吹っ飛ぶほどの軽い口調で父はそうミオに命じた。

 娘の人生をなんだと思っているのだ。怒りを通り越してミオは呆れてしまう。

 しかし昔からこうだった。父だけではない。母もエルフェだけを可愛がりミオのことは放ったらかしだった。

 成人し、年頃になってもお洒落にも恋話にも人の噂話にも興味を持たず冒険に傾倒するような変わり者の女の子だったから放ったらかしになったのか、放ったらかしにされたから冒険に傾倒するようになったのかはミオにはもう思い出せない。

「いいじゃないお姉様、お姉様が得意な魔法であの謎の草を荒野に生やして差し上げたらいかがです? 荒野も緑の土地になりますわ」

「まあエルフェったら、ほほほ」

 コロコロと美しい楽器のようにエルフェがミオを揶揄する。ミオには冒険者の才能も何もないのを知っているのだ。

 身の程知らずで能無しの夢想家。それが家族のミオに対する評価である。

 幼い頃はここで怒ったり悲しんだりしていた。しかしその度に「お姉様ったら恐い」「冗談も分からないのか」「ミオみっともなく泣くのはお止めなさい、恥ずかしいですよ」と口々に言われますます笑い者になってミオは孤立していくだけだった。だから無表情でただテーブルの下で自分の地味な柄の黒ドレスをぎゅっと握り締めるに止まる。

「お母様もエルフェも今の勇者様のお話を聞いてどうとも思わないのですか?」

「それは気の毒よ。可哀想なお話だと思うわ」

「なんて可哀想な勇者様」

 ミオの問いかけに白々しい言葉を並べる母の張り付いた笑みもそれに追従して笑うエルフェの笑みも気持ちが悪い。

 もしかしたら自分は本当はこの家の人間ではないのかも知れない。あまりにも価値観が違いすぎる。

 それならばいっそ。

「分かりました。勇者様の元へ参ります」

 ミオが静かにそう告げる。ミオだって結婚適齢期だ。それにこの家にいたくない。いや、それよりも可哀想な勇者のために何かをしたくなったのである。

「そうか、なら明日の朝にでもすぐに旅立ってくれ」

 父は無感動にそう告げる。

「明日……はい」

 あまりにも早すぎる出立だが、ミオは頷く。元々荷物なんて僅かな着替えと魔術の本くらいしかない。あともう一つ宝物がある。

「わ! それならば明日はお姉様の結婚パーティーですわね!」

「まあエルフェったら、ミオは朝早くにいなくなるのに……けれどお祝いはしなくちゃね。ミオの結婚ですもの。パーティードレスは何を着ようかしら」

「こないだ買ったあのドレスが着たいわ!」

 妹と母はミオそっちのけで本人不在の結婚パーティーの相談をし始める。悪気がないのが余計に酷い。

(下らない……)

 こんなところに一秒たりともいたくない。さっさと荷造りをしようとミオは椅子から立ち上がるのであった。

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